ご挨拶

Greeting

アドバイザーからのメッセージ

疫学研究アドバイザー
公益社団法人 久山生活習慣病研究所 代表理事
九州大学 名誉教授
清原 裕

MESSAGE

健康長寿社会の実現を目指した大規模認知症コホート研究(JPSC-AD)の設立に寄せて

わが国は超高齢社会を迎え、急増する認知症が大きな医療・社会問題となっています。厚生労働省の試算では、2012年における全国の認知症患者数は462万人で、2025年には700万人を超え、その後も高齢人口の伸びとともに増え続けると予想されています。このことは認知症患者さんを支える家族や地域の負担の大幅な増大をもたらし、国の財政を圧迫して医療・介護制度の維持が困難になる事態を招くと危惧されます。
認知症はアルツハイマー病をはじめいくつかの病型に分けられ、その多くは遺伝因子と環境要因が合わさって発症する多因子疾患ですが、成因はいまだ十分に解明されておらず、また治療法も確立していません。したがって、最も重要な課題は認知症の発症を未然に防ぐ予防手段の開発です。認知症の予防対策を講じてその社会的負荷を軽減するには、前向き追跡(コホート)研究を主体とした疫学調査によって国民レベルにおける認知症の実態を把握し、生活習慣や環境要因の中に存在する危険因子・防御因子を明らかにすることが必要不可欠です。しかし、認知症のコホート研究の歴史は脳卒中や循環器疾患、悪性腫瘍のそれと比較して浅く、また追跡調査における認知症発症者の把握の難しさから、精度の高いコホート研究はわが国のみならず世界的にみても数少ないのが現状です。
このJPSC-ADは、全国1万人の高齢者の方々を対象とした認知症の大規模コホート研究に最新の生命科学の研究手法を融合させた、世界に類をみない意欲的なプロジェクトです。この研究は、遺伝因子および生活・環境要因の中に存在する認知症の危険因子および防御因子を見出すとともに、その病態の解明と治療法の開発につながる科学的エビデンスを得ることを目指しています。その成果によって、認知症の発症リスクの予測モデル、診断マーカー、予防法、および治療法の開発が進み、1人ひとりの発症リスクに応じた予防・治療法(個別化予防・医療)の実現に近づくと期待されます。本研究の認知症克服の取り組みが、将来にわたり活力ある日本を維持するうえで大きく貢献することを願ってやみません。

ゲノム疫学アドバイザー
公益社団法人 久山生活習慣病研究所
客員研究員
久保 充明

MESSAGE

「健康長寿社会の実現を目指した大規模認知症コホート研究
(JPSC-AD)」への期待

日本は世界一の長寿国であると共に、世界で初めて超高齢化社会に突入した国でもあります。そのような状況の中、国民一人一人ができるだけ長い間、健康で生き生きと暮らすためには、いかにして高齢者がかかりやすい病気を予防するか、という観点は非常に重要です。中でも認知症は、我が国の高齢化に伴って急増しているというだけでなく、ご家族の介護などの負担も大きい社会的問題でもあるため、我が国が最も優先して取り組むべき課題だと言えます。その認知症の予防法の開発に向けて、真正面から取り組んでいるのが「健康長寿社会の実現を目指した大規模認知症コホート研究(JPSC-AD)」です。
実は、認知症の治療、予防については、以前から色々な取り組みがなされています。認知症のなりやすさには、遺伝要因と生活習慣の両方が関係する事が知られています。認知症の遺伝要因としては、APOE遺伝子のε4(イプシロンフォー)を持つ人は2~3倍アルツハイマー病になりやすい事が知られています。一方、生活習慣については、研究代表者の二宮教授が率いておられる久山町研究の成果から、運動、食事パターン、喫煙などがアルツハイマー病と関係がある事がわかっていますが、少数例での検討のため日本国民全体に当てはまるかどうかがわかっていません。近年、アルツハイマー病の患者さんを対象とした治療薬が次々と開発されてきましたが、残念ながら全て失敗に終わっています。つまり、認知症は、病気になってから治療するのではなく、病気にならないような予防法を見つけていく事が最も重要な疾患なのです。
では、どうすれば私たちは認知症を予防できるのか?その答えを見つけだすのが、このJPSC-AD研究です。今回の研究では、日本全国の研究者が結集し、高齢者を対象とした地道な疫学調査により、認知症を予防するための効果的な手段を見つけていきます。このような研究は世界でもまだ数少なく、ここから発信される成果は日本だけでなく世界中の高齢者にとって希望の光となるはずです。

認知症・うつ病アドバイザー
大阪大学大学院医学系研究科
精神医学教室 教授
熊本大学 客員教授 
池田 学

MESSAGE

世界をリードする大規模認知症コホート研究(JPSC-AD)への期待

わが国は、人類史上初めての超高齢社会を生き抜くという壮大な実験の只中にあると言われています。認知症の人の数はしばらく増え続ける一方で、介護や労働を担う若者の人口は減り始め、人口減少に伴い地域のコミュニティーが弱体化し、いわゆる多死社会を迎えつつあると考えられています。このような事態を打開するために、省庁横断的に推進されようとしている認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)では、「認知症高齢者等にやさしい地域づくり」に向けて、認知症の人が住み慣れた地域の良い環境で自分らしく暮らし続けるために必要としていることに的確に応えていくことを旨としつつ、認知症の予防法などの研究開発が7つの柱の一つとして掲げられています。
その中心的な研究の一つとして期待されているのが、この大規模認知症コホート研究ということができます。欧米では、大規模な研究プロジェクトは、精緻な疫学研究のデータを基に明らかになった課題に対して、取り組むことが一般的です。わが国でも、このコホート研究から得られるであろう多数の貴重なデータを基に、国民の期待に応えられるような研究が支援され、展開されることを期待しています。
世界的には、これから急速に高齢化が進んでいくのはアジア地域の国々です。本研究の成果が、アジアの隣人たちの認知症対策にも大きく貢献されることを楽しみにしています。

認知症・うつ病アドバイザー
九州大学名誉教授(精神医学)
日本精神神経学会 理事長 
神庭 重信

MESSAGE

健康寿命の延伸の実現に向けて、大規模認知症コホート研究(JPSC-AD)の成果に期待

九州大学精神医学教室は、2004年以来、久山町認知症研究に参加させて頂いています。認知症は精神医学にとっても重要性が増しており、同老年精神医学研究室(小原知之講師がリーダー)の活動は久山町研究に参加して以来、さらに活発になってきました。
私は、次々に重要なデータが生み出されるのを、その都度強い感銘をもって見てきました。久山町のデータが精緻な方法論と厳密な解析に基づいていることを身近に知っていましたので、ハイインパクトジャーナルに掲載され、国際的に認知症研究・医療に大きな影響を与えてきたことを、自信を持って誇りとしてきました。
いわゆる一万人コホート研究では、高齢うつ病も対象としています。高齢者の二大精神疾患といえば、認知症とうつ病だからです。高齢うつ病の実態をさらに明らかにし、うつ病と認知症の関係、うつ病とその他の身体疾患、生活習慣との関係が言われています。これらの諸問題に関する決定的なデータを得られることでしょう。さらに新たな発見が生まれることにも期待しています。
認知症は、国が全力を挙げてしかも早急に対策を講じなければならない疾患です。基礎研究と臨床研究が、そして医療と保健・介護とが一体となって進んで行かなければなりません。これからも、この認知症コホート研究が新たなステージへと進歩し、この喫緊の課題解決に向けて大いに貢献し続けることを期待しています。